「メンデルの法則」とは?

先週、ふとしたことから作家の島田明宏さんとランチをご一緒させて頂きました。 その際に拙著『サラブレッドの血筋』を押しつけてしまったのですが、その拙著で言及した「メンデルの法則」についてご興味を持って下さり、 昨日あらためて連絡を頂戴し、「ネットに載っている『メンデルの法則』の説明はどれも難しいので、わかりやすくまとめたコラムを是非書いて頂けますか?」 という嬉しいご提案!  今日の島田さんの 「ネットケイバ」のコラム『熱視点』 をご覧下さい。 別途私は「メンデルの法則のような遺伝の大原則を理解せずに血統(特に配合)を論ずるのは憲法の条文を読まずに憲法を論ずるようなものだ」と言ってきた立場上、 いつかこれについては本コラム欄で書かねばとちょうど思っていたところでもあるのです。

遺伝の大原則である「メンデルの法則」には「優性(優劣)の法則」「分離の法則」「独立の法則」の3つがあります。 まず、ウィキペディア の記述ですが、 さすがの私でもこれはすんなりと頭に入ってきません。

では次。以下は3年前にノーベル賞を受賞した本庶佑氏の著書『ゲノムが語る生命像』(講談社ブルーバックス)にある説明文です。

「親の形質は遺伝子によって、子へ伝えられる。また、子の代ではその遺伝形質の発現に力関係があり、発現されるものを優性、かくれてしまうものを劣性と定義している。 これが『優劣の法則』と呼ばれる第1の法則である。ところが孫の代になると、子の代には存在しなかったかのように見えた劣性の遺伝形質が、 やはりちゃんと残っていて発現してくる。これが『分離の法則』と呼ばれるメンデルの第2法則である。メンデルの第3法則は『独立の法則』と呼ばれ、 無関係な2つの遺伝形質は、それぞれ独立して勝手に親から子へ伝えられる、というものである」

益々わからなくなりましたね(笑)。このことは こちら でも書きましたが、そもそも研究者は科学のことはよく知っているけれども、 情報の伝え方についての訓練を受けているわけではないということ、つまり、科学をよく知っているということと科学をうまく伝えられるということは別なのです。

そこで、こちら でも書いたとおり、自称「B級科学者」の私の出番となります!  しかし、いざこの3法則について、普段「遺伝」というものに接していない人たちに理解頂けるような説明文をひねり出すことは思った以上に難しい。 こちら でも書いた息子の教科書や、私が大学受験の時に使った懐かしい参考書まで引っ張り出してみたものの、 どれもこれもやはり上述の堅苦しい文章と大差なし。これでは一般の方々が理解できないのも無理はないと思ってしまい、今般、以下のとおり、 私なりの作文をしてみました。どうでしょうか?

「優性の法則」
例えば人間の血液型。AとOの双方の遺伝子を持った人(遺伝子型AO)は、遺伝子Aが遺伝子Oの作用を覆い隠してしまい、その結果、その人の血液型はA型となるが、 このように、作用を覆い隠してしまう遺伝子Aを「優性」、作用が覆い隠されてしまう遺伝子Oを「劣性」という。 (こちら も参照)

「分離の法則」
遺伝子は染色体に存在し、人間の染色体は23対(=46本)ある。各々の「対」がきちんと「分離」することで、精子と卵子はその半分である23本ずつを持つことになり、 それが合体することで新しい命が新たな組み合わせの46本を持って誕生する。

「独立の法則」
例えば、血液型の遺伝子は9番染色体、アルコールの強弱を決める代謝酵素ALDH2の遺伝子は12番染色体に存在するが、 各染色体の「対」のどちらかが独自に選ばれて精子や卵子に入っていく。つまり、血液型遺伝子Aをもらうことと、 アルコールに強い遺伝子をもらうことは「独立」して行われ、それらをもらう確率は相互に影響を及ぼさない。

身近な例を挙げながら誰にでもわかるようにと頑張った結果ですが、いかがでしょうか……?

上記では「形質」「配偶子」「対立遺伝子」「減数分裂」「表現型」などという言葉は避け、 特に「優性の法則」の説明においては「作用」とか「覆い隠す」などという言葉を用いてみましたが、このような言葉を生物学で使用することはまずありません。 よって、上記のような私の説明文には、頭の固〜い偉〜い「A級科学者」はつっこみを入れたくなるかもしれませんが、しかしA級科学者の皆さまが普段使う言語など、 世間一般においては強い訛りかのごとく通じないのですよ!  多くの科学者がそのことを自覚しないがゆえに、こちら でも触れましたが、子供の理科離れは加速するのです。 そんな時にこそ、僭越ながらも私のようなB級科学者が「通訳」として必要なのではないかと思うことがしばしばあるのです。

今回、上述の文章を自分なりにひねり出しながら、ふと思いました。 例えば生物系の学部の入試問題に「メンデルの法則を誰にでもわかるように〇〇字以内で説明せよ」というのは非常に面白いのではないか?……と。 生物学の知識に加えて文章力も試されるわけで、大学の先生の皆さま、いかがですか? ちなみに上記の私の文章は合格点ですかね??

なお、遺伝の世界における憲法のような「メンデルの法則」ですが、遺伝現象全般においては例外もあります。次回はこれについて書く予定です。

さらに、血統や配合を探究する際、特にインブリーディングについて検討する際などに、この法則を知っているとどのように役立つのか?…… といったことも今後書いていければと思っております。

(2021年8月26日記)

わかりやすい文章を心掛け、「分離の法則」の説明文では「合体」という言葉を使ってみたものの、自分で書きながら不意に色っぽいことを想像してしまい、 ドキドキしてきました。私も心はまだ若い。。。

(2021年8月27日追記)


「メンデルの法則」の例外(その1) に続く

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