「メンデルの法則」の例外(その1)

前回、「メンデルの法則」を私なりに噛み砕いて説明させて頂きましたが、今回はその続編として、 この法則の例外について書いていきたいと思います。

「優性の法則」の例外

例としてよく挙げられるのはマルバアサガオの花の色であり、 こちらの画像 は我が息子の高校の教科書『サイエンスビュー 生物総合資料』(実教出版)のものです。 この「不完全優性」とは、その言葉からもわかるように、「対」となった遺伝子の作用に優劣の関係がないことを意味します。 実際、人間も馬も何万という数の遺伝子を持ちますが、その中でもはっきりとした優劣関係があるものはごく一部であり、 このような中間種(雑種)を導くかのような不完全優性たるアナログ様の現象が「遺伝」というものの本当の姿と言っても過言ではないでしょう。

なお、こちら では、人間の血液型の遺伝子Aと遺伝子Bは遺伝子Oに対して優性であり、かつ、 AとBは優劣の関係にないことから「共優性」と書きましたが、ふとA級科学者のウェブサイトを見ると、 共優性と不完全優性にはもっと深い相違点がある旨が書かれています。 が、われわれレベルでは細かいことは考えずに、共優性は不完全優性のひとつと理解しちゃって構いません。

「分離の法則」の例外

メンデルの法則の中で最も普遍的と言われているのがこの法則です。しかしそれでも例外はあります。 代表例が こちら でも触れた人間のダウン症です。 母親の体内で卵子がつくられる際に21番染色体の「対」がうまく「分離」せず、この染色体をダブルで持った卵子がつくられてしまい、 結果としてその胎児は21番染色体を3本持ってしまうことが原因です。

なお、例外というより 前回 の補足なのですが、 「分離の法則」と聞くと、エンドウ豆の受粉の結果たる「"丸" と "しわ"」や「"黄色" と 緑"」の比率が「3:1」という数字を思い出す人もいるでしょう。 このことから、「子の特徴が "3:1" の確率比で出現すること = 分離の法則」……と思い込んでいる人もいるかもしれませんが、これはちょっと違います。 こちらの画像 は両親ともに遺伝子型AOのA型の場合、父親と母親の「対」の遺伝子が正確に「分離」することにより、 子供の血液型の発現確率はA型:O型=3(75%):1(25%)となる図式です(汚い字はお許しを……)。 これは、こちら でも書いたスワーヴリチャードやインティ、さらにはサリオス、アグネスフライト、アグネスタキオンのように、 両親ともに鹿毛系ながら25%の確率で栗毛として生まれてきたことと全く同じ理屈です。 つまり、あくまでこの「3:1」という数値は、この法則に基づく結果のひとつにすぎないということです。 父親がA型(遺伝子型AO)で母親がO型(遺伝子型OO)の場合に生まれ来る子供の血液型の確率比はA型:O型=1:1ですが、 これも「分離の法則」に基づくものです。

「独立の法則」の例外

前回 のこの法則の説明で、血液型の遺伝子は9番染色体、 アルコールの強弱を決める酵素ALDH2の遺伝子は12番染色体に存在することを書きました。 ここで想像してみて頂きたいのですが、もしも、その酵素の遺伝子が血液型の遺伝子と同じ9番染色体に存在したならどうなるでしょうか?  もしもそうだった場合、血液型遺伝子Aが載った染色体にはアルコールを強くする遺伝子も同居していた!……なんてことが発生するわけです。 このように別個の生物的特徴(遺伝学で言う「形質」)がリンクして子に受け継がれていく現象を「連鎖」と言います。

もうおわかりですよね? この「連鎖」こそ「独立の法則」の例外です。 例えば、ウィキペディアの「1番染色体」をご覧下さい。 ここの「疾患と疾病」にリストアップされている病気は、各々が「連鎖」の関係にあるということです。 また、「彼は血液型がO型だからあんな性格だ」というような会話を聞くことがありますが、これに信憑性があるとしたならば、 そして血液型遺伝子自体が性格に影響を及ぼさないとしたならば、9番染色体には性格に作用する別の遺伝子が載っているということになるわけです。

以前 こちら でも書きましたが、その昔、「テスコボーイの栗毛産駒は走らない」という根も葉もない説が流布しました。 これがもしも本当ならば、毛色遺伝子自体に毛色誘発以外の作用は見出されていないことからも、 競走能力に影響を及ぼす別の遺伝子が一緒に産駒に受け継がれたということになり、これこそ「連鎖」でしょう。 また、こちら ではシラユキヒメ一族の白毛遺伝子は、 優れた競走能力を導く遺伝子と「連鎖」の関係にあるかもしれないという仮説(妄想?)を私は掲げました。

次回は、上記以外の例外について書く予定です。

(2021年9月3日記)

「メンデルの法則」の例外(その2)」に続く

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