ノーザンファームのジレンマ

イクイノックスの種付料が、父キタサンブラックと同額の2000万円と発表されました。あくまでビジネスの側面に立てば、この額は不思議ではないでしょう。 ただ、少なくとも種牡馬というものの価値は、産駒が走ってから定まるものです。 その馬の競走成績と種牡馬成績が必ずしもリンクしないことはいくつもの例が挙がると思いますし、 産駒の走り次第ではその評価、つまり種付料が激変するのはスワーヴリチャードが好例でしょう。

来年、そろって種付料が2000万円のこの親仔に集まってくる交配相手は、それこそ一流牝馬たちばかりとなるのは必至でしょう。 そんな中、前回 も書きましたが、すでにイクイノックスとアーモンドアイの配合を期待する声が過剰なまでに上がっており、 これには正直なところ違和感を覚えます。超一流馬に超一流馬を交配すれば、トコロテン式に超一流馬が生まれてくるわけではありません。 が、もうすでに外堀が埋められてしまったかのごとく、このままでは来年のアーモンドアイの交配相手はイクイノックスの一択の空気になってしまった感さえあります。 そんな懸念をいまつらつらと書こうと思ったところ、ちょうど3年前に「アーモンドアイの交配相手に思うこと」を書いていたことに気づきました。 そしてやはり「ベスト・トゥ・ベストの配合はベストなのか?」に書いたようなことを思わずにはいられないのです。

あらためてアーモンドアイの実際の交配相手を見れば、初年度はエピファネイア、2年目はモーリス、3年目はキタサンブラックでした。 そして次はイクイノックスかということであり、そうするとこれら配合はすべてサンデーサイレンスのインクロス持ちとなり、 順に3×4、3×4、3×3、3×4となります。個人的には上述のとおり、アーモンドアイにはもっと異系の種牡馬を試してみたいとどうしても思ってしまうのです。 が、アーモンドアイの仔はシルクレーシングに卸されるのが一本道でしょうし、交配相手の決定権もシルクが握っている気配であり、 そこにいる一口馬主諸氏の嗜好が上記のような配合に傾倒していれば、ビジネスという観点では仕方がないのでしょう。 「歯止めがかからなくなる懸念」に書いたような想いが殊に強まります。

確かに上記はバイヤーの嗜好の一側面にすぎませんが、 いずれにしてもマーケットブリーダーは常にそのようなあらゆる、そして移ろいやすい嗜好にアンテナを張らざるを得ません。 そしてノーザンファーム規模のブリーダーになると、保有する血の全体的な偏りを避けることにも常に留意しなければならず、 「巨大な自転車操業」(その1) (その2) に書いたようなアグレッシブな海外の異系名血の継続的な導入もその一環でしょう。 この1週間のあいだにも、ノーザンファームは以下の名牝を落札したというニュースが入ってきました。円貨換算額はネットケイバのX(旧ツイッター)の情報です。

Prosperous Voyage …… 昨年の英GIファルマスステークスの勝馬で、落札額は約4.67億円。
Cachet …… 昨年の英GI千ギニーの勝馬で、落札額は約4.28億円。
Channel …… 2019年の仏GIディアヌ賞の勝馬で、落札額は約1.87億円。

天下のノーザンファームとはいえ、円安も加速している中、このような導入も資金的にはぎりぎりではないかと推察します。 しかし組織の維持のためには、背に腹は替えられないのでしょう。 よって、以上に書いたような現実とのジレンマがますます増大していくのではないかと思わずにはいられないのです。

来年のアーモンドアイの交配相手がイクイノックスでなかったときは、その生まれてきた産駒の一口馬主に対する設定額はイクイノックスの場合に比べて劣るのかもしれまません。 しかし、もしもそのような決断を、シルクの意向を抑えてノーザンファームが下した場合は、私は心から拍手を送りたいと思います。

(2023年12月11日記)

今日はイクイノックスの引退式でした。そしてアーモンドアイの来年の交配相手はイクイノックスだといきなり発表されましたね。 これほどまでに早期に発表されることに唖然とし、こちら のデイリーの記事にある 「(アーモンドアイに)付けざるを得ないでしょう」という吉田勝己さんのコメントは、上に書いたように、「外堀が埋められてしまった」と私には聞こえます。 ということで、残念ながらノーザンファームに対して拍手はできませんでした。

(2023年12月16日追記)


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