牝馬のインクロス

今回は、ちょうど3年前の今日に書いた「牝系インクロス」の続編のようなものです。 なお今回のタイトルは、「牝系」と言うと少し論点からずれるので、「牝馬の」としました。些細なことではありますが。

雑誌やネットの記事、さらにはSNSを見ると、相変わらず牝馬のインクロスに意義があるような言説に出合います。 5年近く前に書いた「補足遺伝子」の最後には、レイデオロがディープインパクトの娘と交配すればウインドインハーヘアの3×4になるので、 これをキャッチフレーズとしたものがいくつも出てくるのではないかと書きました。 また、エフフォーリアの配合相手について取り上げた「バイアスのかかった遺伝子プール(その10)」の後段には、 ケイティーズファーストのインクロスを入れる配合を狙ったと思ってしまう例がいくつもある旨を書きました。

しかし、「近親交配(インブリーディング)とは何か?(その7)」に書いたとおり、 同じインクロスでも牝馬のインクロスには別の意義があるというような考えに対して、生物学的にはフォローのしようがないのです。 以前見た当該意義を力説するかのような記事は、単にその配合の成功例を意図的に集めて紹介しているだけのように見受けました。 仮に当該配合の成功例たる活躍馬が何頭もいたとしても、果たして特筆に値するのでしょうか。

複数のGI馬を産む牝馬が多いということは繰り返し書いてきましたが(こちら は拙著)、 すると、このように複数の活躍馬を出す名牝の仔が種牡馬や人気の繁殖牝馬となる率は相対的に高いと思われます。 さらには、その孫、曽孫が種牡馬になり繁殖牝馬になれば(その名牝がこれら血統表のボトムラインにいるかを問わない)、 敢えてその名牝のインクロスを狙わなかったとしても、その血を持った種牡馬と、同じくその血を持った繁殖牝馬との配合例はそこそこの数になるはずです。 ちなみに、「名牝を母に持つ名種牡馬」 (その1) (その2) に書いたことも、これに関連します。

私が今世紀生まれの世界のGI勝馬を網羅した母系樹形図を作成しているのはご存じのとおりで、こちら は、 アーモンドアイなどを出した Best in Show の系統です(下線を付したものは今世紀生まれのGI馬。太字は違う種牡馬相手に複数のGI馬を産んだ牝馬。 なお、フサイチパンドラはエリザベス女王杯の勝馬ながら、国際格付前のGIなので下線は付していません)。 このように繁栄する牝系の樹形図は縦に長く垂直に近いレイアウトになり、これは、その末裔同士の配合もそこそこの数になることの示唆でもあります。

また こちら は、過日のスプリンターズSを勝ったルガルを加筆した Miesque の系統です。Miesque はGIを10勝した名牝中の名牝です。 その初仔 Kingmambo(キングカメハメハの父)は前世紀生まれなので我が樹形図には掲載していませんが、それを含まなくともご覧のとおり、下線を付した馬が重なり合います。 ルガルはこの Miesque 牝系の一員であると同時に、Miesque の4×4のインクロスを持ちます。 そこに意味があるかのような言説はネットやSNSで散見したのですが、上記のような視点も持っていただければとついつい思ってしまいました。

(2024年10月11日記)

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