今年の凱旋門賞を観終えて
昨夜の凱旋門賞。日本からは期待の4頭が参戦しましたが、結果は 11 着、14 着、18 着、19 着と、また今年も……ということになりした。
直前に激しい雨となり、タフなコンディションは日本馬にとっては負の追い打ちがかかった状態となり、決着タイムは2分 35 秒 71 とのこと。
8年前、日本古来の母系の底力を見せてほしいとゴールドシップの応援に現地に行った時は、重馬場巧者のこの馬を想い、
「雨よ降れ、雨よ降れ」と本番までの数日はパリの街中を歩きながら雨乞いの祈りを捧げていたのですが、むなしくも叶わずに完全に乾いた馬場となり、
Treve が連覇を決めた決着タイムは2分 26 秒 05 だったことが対照的でした。
今年の凱旋門賞を観終えて、とりあえず思ったことを書き留めます。
まず、「Galileo の血に埋没する欧州」に書いたとおり、欧州では Galileo の血が席巻しています。
ということで、日本馬を除く今年の凱旋門出走馬 16 頭の Galileo の血の持ち具合いを調べてみたところ、Galileo の孫は 10 頭でした。
さらに、Galileo の父は Sadler's Wells であり、その曽孫(ひまご)まで目を向けてみると 14 頭にのぼりました。
「米、欧、日の負のレース」や「遺伝的多様性の低下に対する米国の方策(その7)」
に書いたようなことを繰り返し述べるとどうしても煙たがられるのですが、いま執筆依頼を受けている新書の原稿では、
一部種牡馬への過剰人気がもたらす近親交配率の増加、そしてそこから派生する遺伝的多様性低下の結果たる「近交弱勢」の問題をかなり掘り下げて書いています。
ところで、9月26日の日本経済新聞に「霜降り至上主義 和牛受難」という記事があり
(ネット版は こちら)、
肉牛における過度の近親交配による近交係数上昇が非常に深刻な様子です。
兵庫県は「神戸ビーフ」のブランド維持のため他県の牛とは非交配の方針の結果、近交係数が約30年間で10ポイント近く上昇とのこと。
20世紀初頭に英国で施行されたものの健常性の弊害で撤廃された、全祖先が『ジェネラルスタッドブック』の収録馬でなければサラブレッドに非ずとした「ジャージー規則」
をどうしても想起してしまいます。
この記事の中では、「特定の遺伝子に頼り切るのは危険だ。一度消えた遺伝子は取り戻せない」との京都産業大学の野村哲郎教授の談話もあり、
これは、「バイアスのかかった遺伝子プール(その6)」で書いた「ボトルネック効果」の行き着く果てです。
ちなみに犬や猫の近親交配の悲惨な状況は「純血種という病」に書きました。
ついつい重い話になってしまいました。書き足りないことはあるのですが、話を変えます。
近年の凱旋門賞の勝馬に牝馬が増えたことはやはり注目に値します。
ここ30年間における牝馬の勝利を見ると、Galileo や Sea the Stars の母たる Urban Sea が勝ったのは1993年ですが、
その後は 15 年を経た 2008 年に Zarkava がようやく勝ちました。しかし 2010 年代に入ると、
デインドリーム、Solemia、Treve(2連覇)、Found、Enable(2連覇)、そして昨日の Alpinista と、のべ8頭も勝っているのです。
斤量のハンデがあると言っても、これ、留意すべきことではありませんか?
このあたりの話には、生物学的にも何らかの意味があるような気がしてならず、
「究極の進化のかたち???」には我が仮説(妄想)書いたのですが、
引き続き今後の各国のビッグレースにおける牝馬の活躍には注目していきたいと思っています。
そんなことも含めて、昨日のスプリンターズステークスはメイケイエールを応援したのですが、残念無念……。
よって、「遺伝学的にも興味深いシラユキヒメの白い一族(その5)」の続編は持ち越しになりました。
(2022年10月3日記)
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