上梓します
昨夏に新書の執筆依頼を受けた件、「執筆の途中経過」と題したもを
(その1)、(その2)、(その3)と書いてきました。
そして、ようやく出版の運びとなりました。昨日アマゾンを見たところ、今月の24日発売とのことでした。
ダービーの直前であり、タイミングを狙ったのかと言われそうですが、べつにそういうわけではありません。
まあ、出版社の方では、何が何でもダービー前にと思った部分はあるのかもしれませんが。
タイトルは『競馬サイエンス 生物学・遺伝学に基づくサラブレッドの血統入門』で、星海社新書です。
アマゾン、楽天、ヨドバシ、紀伊國屋書店などのオンラインストアではすでに予約受付は開始されているようですが、
今日の時点では表紙や要旨はまだ掲載されておらず、そのうちアップされると思います。内容は以下の8章から構成しました。
第1章 遺伝のしくみ
第2章 近親交配(インブリーディング)
第3章 失われる遺伝的多様性
第4章 母性遺伝
第5章 エピジェネティクス
第6章 科学と血統理論
第7章 我が仮説
第8章 サイエンスコミュニケーション
昨夏、編集者から頂戴した最初のオファーのメールには、遺伝学的視点から競走馬の血統を説いたものが見つけられず探していたところ、
我が『サラブレッドの血筋』にたどり着いたと書かれていました。今般出版の新書でも冒頭から書いたのですが、「血統」と「遺伝」は表裏一体です。
それなのに、競馬サークルにおいては、これらは分離して後者は忘れ去られていると思うことがほとんどです。
ついては、「遺伝学の基礎に沿った競走馬の血統に関する入門書」の趣旨でという依頼でしたが、
いざ書き始めると、途中で何度か筆が脱線やオーバーランをしてしまうこともあり、いまようやくたどり着けたという想いです。
今般の内容は、「競馬」とか「サラブレッド」という概念にしばられずに、遺伝の面白さを伝えたかったという部分も大きいです。
例えば、こちら に書いた隔世遺伝の話も流用したのですが、
われわれの身の周りの話も可能な限り盛り込み、ハードルの低い参考書の意味合いも持たせたつもりです。
また、上記の隔世遺伝の話もそうですが、過去に書いてきたことを再度まとめ上げた部分もそこそこあります。
遺伝に関して伝えたいと思うことは本ウェブサイト上で書き綴ってきましたが、これらをいま一度見直して、要点をキーワード化して、さらに箇条書きにしてみた結果が、
上記8つの章のタイトルでもあるわけです。
ところで、先ほどアマゾンの拙著のサイトを見てみたところ、こちら のとおり、「遺伝学・遺伝子工学」
のカテゴリでは1位であることにぶったまげました。
人気が拮抗したレースで一瞬1番人気になった馬の騎手の心境……とはちょっと違うのかもしれませんが、想像するに、遺伝学関連は総合的に人気がなく、
そこそこ売れ筋の書物がないということの証左であるのかもしれません。
第8章の「サイエンスコミュニケーション」では、興味を持ってもらえるようにわかりやすく面白く科学を啓発することの難しさ、
そしてそんな啓発努力を科学者は怠っていることなども書きました。
啓発のさらなる必要性については、「『伝える』ということを考える」(その1)、(その2)
で紹介した三井誠氏の『ルポ 人は科学が苦手 アメリカ「科学不信」の現場から』(光文社新書)や、
「サイエンスコミュニケーション 〜右岸と左岸の橋渡し〜」で紹介した元日テレのアナウンサーの桝太一氏と著名科学者との対談集である
『桝太一が聞く 科学の伝え方』(東京化学同人)に書かれていたことを引用しながら論述したのですが、遺伝に関しては難易度の高い書物ばかりであるという現状が、
一瞬なりとも拙著が1位ということと無関係ではないのかもしれないと思ってしまったのです。
中規模以上の書店であれば、1冊は棚に置かれるのではないかと思いますので、立ち読みしてみて、奇特にも面白そうだなと思った場合は、ご購入をよろしくお願いいたします。
(2023年5月8日記)
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