シーザリオの仔の種牡馬三兄弟

先月末の天皇賞はテーオーロイヤルが快勝しました。春の天皇賞の在り方については3年前に「3200mの天皇賞が持つ意義」 を書きましたが、そこに書いた私の考えは依然として変わりません。 ちなみにそれを書いた時から4年連続でディープボンドは好走(2着、2着、2着、3着)しており、これ、偉大なることです。

ところで、テーオーロイヤルの父リオンディーズは、ご存じのとおり半兄がエピファネイア、半弟がサートゥルナーリアであり、 この三兄弟の母シーザリオは、全て違う種牡馬を相手にこれら3頭のGI馬を産んだ偉大なる牝馬だということは別稿では何度も書いてきました。 その中で「 名牝を母に持つ名種牡馬(その1)」ではリオンディーズにも留意したい旨を書きましたが、 その産駒が今般天皇賞を勝ったということです。 この話を書こうと思いながらも私事がバタバタして先延ばししている中、今度はヴィクトリアマイルをエピファネイア産駒のテンハッピーローズが勝ち、 先の桜花賞もエピファネイア産駒のステレンボッシュが勝っていることからも、今回はシーザリオの仔の種牡馬三兄弟の話にすることにしました。 3年前には「エピファネイアという種牡馬におけるジレンマ」と題した (その1) (その2) を書きましたし、サートゥルナーリアについては「バイアスのかかった遺伝子プール(その9)」を先月に書きましたが、 これらも踏まえながら今回は書いていきます。

あらためて、これら各馬の昨年の交配におけるサンデーサイレンスのインクロス状況を、 サラブレッド血統センターが毎年発行している非売品の『スタリオンレヴュー』の2024年版で確認しました。結果は以下です。

         交配総数 そのうちサンデーのインクロスとなっている数
エピファネイア   124   64例(52%)⇒ 3x4が45例 4x4が19例
リオンディーズ    78   59例(76%)⇒ 3x4が49例 4x4が10例
サートゥルナーリア 201   130例(65%)⇒ 3x4が102例(※) 4x4が28例

(※)4x4をダブルで持つ個体の近交係数は3x4と同じため、サートゥルナーリアの3x4の102例には当該1例を含んでいる。

さらに、上記の交配相手から輸入牝馬(持込らしきものも含む)を除いた、つまり内国産牝馬に限定した場合の数字は以下となります。

         交配総数 そのうちサンデーのインクロスとなっている数
エピファネイア    71   64例(90%)⇒ 3x4が45例 4x4が19例
リオンディーズ    67   59例(88%)⇒ 3x4が49例 4x4が10例
サートゥルナーリア 135   128例(95%)⇒ 3x4が101例 4x4が27例

輸入牝馬相手にサンデーサイレンスのインクロスになっている例は、サートゥルナーリアで2例のみであることから、 サンデーのインクロスとなっている数は、輸入牝馬を除いても除かなくてもほとんど変わりません。 また、上記数字からおわかりのとおり、エピファネイアの内国産牝馬相手割合は71/124=57%、サートゥルナーリアは135/201=67%である一方で、 リオンディーズは兄と弟と比較すれば67/78=86%と高率です。 そして、この三兄弟いずれにおいても、内国産牝馬を相手の場合、約9割がサンデーのインクロスです。これ、驚くべき数字ではないですか?

金太郎飴のごとくこれだけ量産されているサンデーのインクロス馬ですので、その総数は当然に膨大なわけであり、これら三兄弟が種牡馬としての資質が高ければ、 いくらでもいい馬は出るでしょう。実際にテーオーロイヤルもテンハッピーローズもサンデーの3×4であり、ステレンボッシュも4×4です。

社台SSに繋養されている兄や弟とは違い、リオンディーズはブリーダーズSSに繋養であり、 またGI馬と言えども勝っているのは2歳戦の朝日杯FSのみであり、相対的に交配相手の牝馬のレベルは兄や弟よりランクが下がります。 それは、上記のとおり内国産牝馬を相手にしている割合が高いこととも無関係ではないでしょう。 それでもなおテーオーロイヤルのような馬を出したわけですから、個人的には要注目と思っています。日高の救世主になればとも思います。 その一方で、いかんせん上記のとおりの現状であり、配合パターンが偏ってしまっていることが残念でなりません。

ここでちょっと話を転じます。 違う種牡馬を相手に複数のGI馬を産む牝馬があまりに多い話は「我が母系樹形図(その2)」などに書きました。 テーオーロイヤルも半兄には、GIではなくJpnIの勝馬ではありますがメイショウハリオがいることも、 つまりこれらの母メイショウオウヒは芝とダートの活躍馬を出したことも、忘れてはならないでしょう。 芝とダートの両方の活躍馬を出したという観点では、「我が母系樹形図(その4)」ではカフェファラオとその半姉 Regal Glory、 マリアライトとクリソベリルのきょうだいの話を出しました。

巨大な自転車操業(その3)」で紹介したNHK『ヒューマニエンス』のミトコンドリア特集では、 神奈川大学人間科学部の北岡祐教授が行っているサラブレッドを用いた研究が取り上げられ、 生体のエネルギー源たるATP(アデノシン三リン酸)を合成するミトコンドリアは肉体的トレーニングにより増やせるとのことであり、非常に興味深いものでした。 そのミトコンドリアの遺伝子は母親からしか授からない「母性遺伝」の様式を取ることからも、 「母系」とはスタミナ源たる素材を育む「土台」ではないかというような仮説を「なぜ特定の牝系から多くの活躍馬が出るのか?(その6)」 に書きました。

これは、優秀な種牡馬の資質を引き出しつつ、そこにスタミナ(エネルギー)の源泉を授けるような肌馬との組み合わせが理想といったところですが、 しかしそのような理想に合致する配合を導き出す確かな解答や公式などないのも実際であることを、念のため申し添えておきます。

(2024年5月15日記)

今日のダービーはダノンデサイルが快勝しました。今年に入り、ステレンボッシュ、テンハッピーローズ、ダノンデサイルとエピファネイア産駒が快進撃であり、 もしかしたら社台SSの来年の種付料最高額馬に返り咲くかもしれませんね。そして、いよいよデビューするサートゥルナーリアの産駒には注目したいと思います。

(2024年5月26日追記)


6月8日の新馬戦でサートゥルナーリア産駒の勝馬第1号となったコートアリシアンの印象は強かったですね。 そして一昨日の宝塚記念はブローザホーンが勝って、エピファネイア産駒の快進撃は続きますが、これら三兄弟の産駒は引き続き要注目です。

(2024年6月25日追記)


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