「バーナム効果」と「確証バイアス」
「血統」と「遺伝」は表裏一体で、切っても切り離せない関係である旨は こちら や こちら に書きました。
つまりこれは、こちら や こちら や こちら で書いたとおり、
既存の生物学や統計学を超える血統理論などないことを意味するわけです。
いま手許に、元法政大学教授で教育学者の左巻健男氏が編集長である『RikaTan(理科の探検)』(SAMA企画)という雑誌の今年の1月号があります。
その特集は「ニセ科学を斬る!」なのですが、その「人間の性格は血液型で決まるの?」の項には以下が書かれています。
「占いでは、誰にも当てはまるような表記で性格が書かれていることが多いですね。そのため、占いが当たったように思い込まされます。これを『バーナム効果』と言います。
異なる血液型の性格も自分に当てはまりませんか」
「また、人間は自分の考えを検証する際に、自分の考えを証明する証拠ばかりを探してしまう傾向があります。これを『確証バイアス』と言います。
そのため、血液型に対応する性格の中から自分に当てはまるものだけを選んでしまいがちです。
ブームが過熱したとき、妄信的信者が血液型で労務管理をしたなど、行き過ぎた大人遊びが見られて社会問題になりました」
確証バイアスについては、こちら や こちら でも触れましたが、
あらためて、競馬関連のウェブサイトや書物に掲載されている血統に関する言説や理論をそのような観点から眺めてみて下さい。
そして、これらに対して、「なぜ?」の視点で斬り込んでみて下さい。その著者(発信者)はきちんとその根拠を科学的に説明していますか?
こちら にも書きましたが、「日本の平均寿命は80歳と高い」と言った場合に、
他の国々が70歳程度なら統計学でいう「有意差」が確かにあります。しかし、他の国々も80歳程度ならば、日本が「高い」とは言えません。
いま、あなたの目の前にあるその血統理論は、「長生きしている日本人のおじいちゃんおばあちゃん」を意図的にたくさん紹介しているようなものではありませんか?
つまり、もしかしたら、その理屈に合致する例ばかりが意図的に集められて列挙されているのではないですか?
認識頂きたいのは、統計学的視点からも斬り込む必要性です。
そのような視点を持てば、こちら に書いた『サンデーモーニング』のスポーツコーナーで阪神JFを快勝したソダシが
「白毛馬はなかなか勝てなかった」と言われたことや、
こちら に書いたエピファネイア産駒はサンデーサイレンスのインクロス持ちの方が成績が良いなどと言う血統論者の思考には、
統計学的視点が抜け落ちていることが分かります。
ところで、近親交配(インクロス、インブリーディング)を好意的に論じている血統評論家が少なくないのが現状です。
しかし、そのような言説を発している評論家の過去の発言を検証してみても、近親交配の効果発現の科学的メカニズムを理解しているとは思えないことがほとんどです。
こちら では、持論に明確な理由を示さずに「ルールである」と言い放っていた血統理論の話を書きましたが、これなど典型でしょう。
機会があればこれら血統評論家に、「なぜきつい近親交配はダメなのですか?」のようなごくごく単純な質問をしてみて下さい。
これにきちんと科学的に即答できる評論家は果たしているのか? と思うことが常であり、逆に言えば、即答できるのなら、
つまり遺伝に関する一定の科学的知識があるならば、「〇〇理論」といったたぐいのものなど安直に創出などできないことに既に気づいているはずなのです。
或る大手生産者は血統評論家が大嫌いというような話を耳にしたのですが、上述のようなことからも、至極当然なことだと考えます。
科学的造詣が深ければ深いほどそのように思うはずなのです。ちなみに私自身が こちら に書いたように、
自分の言説をまことしやかに「〇〇理論」などと言い出したら、放言癖を持った認知症の始まりだと見なして下さい。その時点で私は The End(笑)。
先日、或る競馬関係者が、「競馬サークル内で血統に絡む話をしても、『遺伝』を理解している者が本当に少ない」と言っていたのですが、
それでも一応はこの業界がなんとか継続しているのは、「真実」より「面白さ」が優先するエンタメ業界という側面も大きいと私は思っています。
けれども、別稿ではしつこいまでに書いてきたことですが、この業界を生活の糧としている生産者は「真実」から目を背けるわけにはいきません。
こちら で引用したとおり、『疑似科学入門』(池内了 岩波新書)という本には以下が書かれています。
「科学を仕事とする人間として、科学を装った非合理に対して黙って見ておられない場面もある。
それによって人生を棒に振ったり、財産を失ったり、果ては命を失ったりする人が多いためだ」
つい数日前に見た書物でも上記を想起するような血統理論が掲載されていたことを、最後に記しておきます。
(2022年6月9日記)
戻る